【円安で映える中華圏通貨】落日の香港と最先端のデジタル人民元に迫る

落日の金融ハブ香港

さて先週開催された中国の国会に相当する全人代にて、香港は愛国者による統治が行われるべきとして、香港の選挙システムを変更していくことが正式に決定しました。

これを受けて日本や米国など主要7カ国(G7)の外相は、全人代による制度変更が「一国二制度」の下で保障された香港の高度自治を弱体化させ、複数政党制を抑え込むと批判ししました。

一方で香港の財政長官のポール・チャン氏は「この決定は、分離主義者や外国のスパイが行政に侵入することを防ぐために必要」と述べ、混乱した香港を立て直すために欠かすことのできない措置であることを強調し、これを早期に実装することの必要性を説いています。

このような状況下、米国のヘリテージ財団が毎年公表する経済的自由度を示すランキングが発表され、今年から香港とマカオがその指標から取り除かれていることが確認されました。理由は「経済の自由度は高いが、実質的に政治は北京により統治されており、独立していないから」ということです。

また香港の頭脳明晰な人材の流出も懸念されています。1960年に設立された香港最大の若者向けサービス、香港青年協会が発表したアンケート結果によると、35歳以下の24.2%が香港からの逃避を検討していることが分かりました。またその中でも特に成長の期待されている産業に属している若者のうち29.2%が国外への逃避を検討していることも判明しています。

このような状況になってくると気になるのは企業動向です。SBIの北尾会長が英ファイナンシャル・タイムズ紙のインタビューに対して「自由がなければ金融ビジネスは成り立たない」「私は正直に発言するが、黙っている人もきっと同じことを考えている」「もし中国向けに金融ビジネスを行うのであれば香港ではなく、上海や北京かその他の都市」と発言し、これが香港を代表する英字新聞のSCMPで大きく取り上げられています。

数年前から金融機関で強まっている「中国ビジネスを展開するなら香港ではなく、上海か北京で」と言う動きがますます加速しそうです。思ったよりも早く香港の凋落が始まりそうです。

 

デジタル通貨構想の最先端を走る人民元とその国際化政策

さて、本日は少し趣向を変えて、デジタル通貨や人民元の国際化政策について話をしていきたいと思います。一見すると為替相場と関係ないようにも思えますが、私はこれが為替相場に直結する分野と考え、継続してウォッチしています。

昨今、ビットコインなどブロックチェーン技術を採用することで富(金銭)の移動を可能にした仮想通貨の台頭が目立っています。またPayPayなど決済機能を持ち合わせたテクノロジー企業が提供する金融サービスの存在感もますます高まっています。

インターネットと先端テクノロジーを用いることで、国の通貨でなくとも技術的に富の移動が可能になったことで世の中はより便利になると考えることも出来ますが、一方で米ドルなど既存の国の通貨の信頼は揺らぐ可能性があり、各国の政府や中央銀行はその動向を注視し、警戒を強めています。

「イノベーション」と「国の威厳」の狭間に揺れる各国を横目に早々に対応を始めたのが中国の中央銀行、中国人民銀行です。中国では2014年から中央銀行のデジタル通貨研究がスタートし、2020年から中国本土の各地で「デジタル人民元」の使用実験が始まり、実装まであと一歩のところまで迫っています。また国内で幅を利かせていたペイメント会社の「アリババ」を叩くことで、国家が中心であることをビッグテック企業に知らしめた、国の威厳を保ちつつ中央銀行主導で開発を進めています。

一方、アメリカでも中銀に相当するFEDがデジタル通貨に関する調査を進めています。先月に公表されたFEDの調査によれば、FEDのデジタル通貨の調査開発の目的は、決済やマネタリーベース管理の安全性と効率性の追求と記載されていますが、実際にはこの分野で先を進んでいる中国への警戒や、年々力をつけるフェイスブックなどのビッグテック企業への警戒感を強めているのでしょう。最近ではテスラのCEOであるイーロン・マスク氏が柴犬を模したドッジコインと呼ばれる仮想通貨に対するツイートを連発するなど、米金融規制当局の注目を集めており、米国ではビッグテック企業と国家との暗闘が続いている状況です。

このような状況を横目に中国人民銀行はデジタル通貨研究プロジェクトの海外協力を開始。先月末に、中国本土・香港・タイ・UAEの4中銀が共同でデジタル通貨に関する研究を開始することが公表されるなど、国が主導権を取ったデジタル通貨、すなわち「デジタル人民元」を海外に広げる動きを積極展開しています。

国際商取引に用いられる人民元の決済比率は2.4%前後とまだまだ米ドルと差は大きいものの、中国経済の成長に連れて、この比率は年々上昇しています。またデジタル通貨の開発プロジェクトを通じてプレゼンスを高めることで、中国はデジタル通貨規格が世界標準になった際の先行者メリットを得ることが想定されます。

ドル高の局面でもなかなか人民元安は進みませんが、背景にはデジタル人民元を通じた人民元国際化の加速観測も関係しているのかも知れません。

 

最新の香港ドル・人民元相場情報

さて為替相場のアップデートをしていきたいと思います。先週は全体的には「ドル安相場」でした。2月時点における米国の物価上昇が限定的なことや、足元の欧州中銀の金融緩和継続姿勢が示されたことで、リスクを取りやすい環境が確認され、投資家のリスク・アピタイトが高まる中で、ドル円は109円台を突破し、この水準を維持しています。

このような中で、香港や中国の動きはどうなっているのか、まずは香港ドルから見ていきましょう。

 

香港ドル/日本円(HKD/JPY:オレンジ色のチャート)はいよいよ14円台を突破してきました。米ドル/香港ドル(USD/HKD:青色のチャート)が想定より米ドル高が進まずに香港ドル高に傾いたことで、香港ドル/日本円の上昇幅はドル円対比でも大きい一週間となりました。

2月9日号で、香港ドル/日本円は14円台突入、14円20銭が目安と言及していますので、引き続き目線は14.20に据え置きたいと思います。ここからの上昇余地は一旦限られると思いますので、一旦は利食い先行で良いと思います。

次に人民元を見ていきます。

 

人民元/日本円(CNH/JPY:赤色チャート)の上昇が止まりません。円安が加速する相場の中で人民元/日本円は16.70台が定着、いよいよ16.80台を窺う展開になっています。米ドル安相場の中で、米ドル/人民元(USD/CNH:青色チャート)が素直に売られ、米ドル安・人民元高が進んだことも人民元/日本円の上昇に寄与しました。

人民元/日本円の上昇の主な理由は「円安」です。米長期金利は上昇しているのですが、日本の長期金利は低位で安定しており、結局、低金利で調達通貨の円が売られて、米ドルやその他通貨が買われてしまうことから円安が続いています。

さらに理由を加えるのであれば、本日の「2. デジタル通貨構想の先端を走る人民元の国際化政策」で述べたように、人民元の先高観もあいまって、人民元が選好されているのかも知れません。とにもかくにも人民元/日本円の勢いは止まりません。

今週末は日銀の金融政策決定会合が予定されています。ETFの買取方法など、金融緩和と直結する政策についても議論がなされる予定で、注目しておきたいところです。円高の巻き戻しのきっかけになる可能性に留意しておきましょう。

 

<参考文献・ご留意事項>

各種為替データ
https://Investing.com

South China Morning Post: Hong Kong elections reform: Beijing shake-up designed to stop separatist and foreign forces infiltrating city’s administration, top official says
https://www.scmp.com/news/hong-kong/politics/article/3125397/hong-kong-elections-reform-beijing-shake-designed-stop

香港青年協会:Tackling Hong Kong’s Brain Drain
https://yrc.hkfyg.org.hk/en/2021/03/15/tackling-hong-kongs-brain-drain-2/

The Heritage Foundation: KEY FINDINGS OF THE 2021 INDEX
https://www.heritage.org/index/pdf/2021/book/2021_IndexofEconomicFreedom_CHAPTER01.pdf

BOARD OF GOVERNORS of the FEDERAL RESERVE SYSTEM:Preconditions for a general-purpose central bank digital currency
https://www.federalreserve.gov/econres/notes/feds-notes/preconditions-for-a-general-purpose-central-bank-digital-currency-20210224.htm

 

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戸田 裕大

若竹コンサルティング 創業者