激化する米中金融戦争と振り回される香港 為替はドル安

本シリーズでは、発表された報道や現地の声、公表された経済データなどをもとに、香港の最新の情勢について迫っていきます。香港ドル・人民元などの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。

第25回は「激化する米中金融戦争と振り回される香港 為替はドル安」でお届けいたします。

それでは、さっそく本題に入っていきます。

 

香港財務長官の発言から示唆を得る

今月6日、香港のポール・チャン財務長官は、香港景気は2021年後半に回復する可能性は十分にあるが、それは私の制御できない力に依存する(out of controlである)と言った趣旨の発言を行いました。ここで言う制御出来ない力とは、具体的には「コロナウイルスの影響」「ワクチン入手とその投与効果」、そして「米中関係の改善」を指します。

災害に関して、何事も投資家目線で語ってしまい恐縮ですが、これらが国際政治・経済の至上命題である以上、必然、相場の大きなテーマになっていることを、ビジネスマン、それから投資家は、改めて認識しておきたいところです。2020年も終わりに近づいてきましたが、今年を振り返ってみれば「コロナ」「米中対立」この二つは非常に大きなテーマであり、これに大きく振り回された1年間でした。そして、残念ながらこれは来年も続くテーマになりそうです。

金融の力だけではこれらの問題を解決できない、当たり前の事実かもしれませんが、それを最も認めたくない、金融を司る香港の財務長官が認めた点に、この問題の大きさを感じます。

またポール・チャン財務長官は、2021年度予算をベースに、香港は過去最高水準の財政赤字に直面する予定であるが、それでもまだ、緊縮財政を行うべきではないと発言しました。拡大傾向の財政赤字を踏まえ、追加の雇用支援金などを配布する予定はなく、今後は的を絞った財政支援を行う方針のようです。

これも非常に示唆に富む発言だと思うのですが、ようは、そろそろお財布の中身を気にしなければならない、こういった状況が香港をはじめ、世界に広がっています。ところが、それにも関わらず上昇し続ける株式市場を眺めていると、じわりじわりときしみが発生しているのではないかと考えるのが無難ではないでしょうか。

コロナの影響で、減給や早期退職勧告について目や耳にする機会が徐々に増えています。何事もなく、ワクチンが効果を示し、景気が早々に上向けば良いのですが、万が一に備え、来年は大波乱の年になることを想定しておくべきなのかも知れません。

 

米下院が対中強硬法案を可決

米下院議会は2日、米株式市場に上場する外国企業について、必ず民間の(政府からの人的・資本的な影響を受けていない会計事務所の)監査を受けるよう、義務付けることを決定しました(Holding Foreign Companies Accountable Actと呼ばれています)。本法案は2020年5月に上院で可決した後、下院で継続審議になっていましたが、米議会はいよいよ派閥を超えて超党派でこれを推し進めることにしました。

今回の法案では、米国に上場する企業がSEC(米証券取引委員会)による監査状況の点検を3年連続で拒んだ場合、当該企業の株式の売買が禁止となります。現在、NY証券取引所に中国e-commerceの雄アリババ、Nasdaqに中国版googleのバイドゥなど多数の中国企業が米国株式市場に上場していますが、SECが定める会計事務所による監査が義務付けられると、米国上場を維持できなくなる可能性があります。

つまり本法案は、中国企業を上場廃止に追い込む可能性がある内容で、米議会の対中強硬姿勢が改めて浮き彫りになったとも言えます。

中国企業は世界最大の米国市場の上場維持が困難になると、海外とアクセスが可能で、中国からの資金流入を見込める香港市場へと向かうことになると思います。しかし、今までのように海外からの資金投資が見込めるかどうか、そこに不透明感が残ります。

つい先日、アリババの上海・香港へのダブル上場の延期が発表されました。投資家はより一層、中国本土及び、香港市場の政治リスクを認識したはずです。そのため米国に上場している中国企業が香港市場に鞍替えした場合に、今までと同水準の資金調達能力を維持することはできず、少なくとも短期的に企業活動が停滞することが予想されるのです。

コロナ対策では大きな成果を出した中国ですが、金融対立においては、通貨覇権を握る米国に、まだまだ分があると言えます。金融対立において米国が大きく優位性を保ち、中国の力を削ぐのか、この視点は米中対立を占う上で重要だと思います。そしてこれらの結果が米ドルや人民元の為替レートへ大きく影響を与えることになるでしょう。

 

香港ドルと人民元相場のアップデート

さて恒例の相場環境の確認です。まずは香港ドルから見ていきましょう。

 

香港ドル/日本円(HKD/JPY)は引き続きじり安の展開が続いています。こちらはドル円と同程度の動きが続いていると考えて頂ければ十分だと思います。

米ドル/香港ドル(USD/HKD)については11月に反発の兆しがみられたのですが、再度下落圧力が強まってきました。米国の大規模な金融緩和や、基軸通貨性の薄まりを懸念して、世界的にドル安が進む中でUSD/HKDにも大きな下落圧力が掛かっていることに変わりはありません。

以下のチャートを見て頂きたいのですが、ドルインデックス、USD/JPY、USD/CNYがそれぞれ5%程度、年初来で下落しているにも関わらず、USD/HKDだけは香港中銀の為替介入で不自然に高止まりしていることが分かります。

 

今までは米ドルの価値が安定推移していましたから大きな問題にはなりませんでしたが、世界的なドル安になれば、状況は変わります。この状態が長く続けば続くほどに、香港と各国の消費者物価、企業物価、貿易物価などに歪みが発生してくることになります。

来年はUSD/HKDの下方向への水準是正がある可能性には十分留意しておきたいところです。

次に人民元を見ていきましょう。

 

トレンドは明快で、人民元高が現在も続いています。人民元/日本円(CNH/JPY)は15.90を超えて16円台を窺う展開、そして米ドル/人民元(USD/CNH)は6.50割れを試しています。

今月7日に中国の11月貿易収支が発表されましたが、これだけの人民元高でありながら、今年最大の貿易黒字を叩き出した中国。この数字をみて中央国務院及び中国人民銀行はまだまだ一段の人民元高を推し進めることが出来ると確信したのではないでしょうか。

現時点で筆者は、来年、もう一段の人民元高を想定しており、その一旦の目安はUSD/CNH で6.30前後としています。この6.30と言う水準は即ち、2018年の年初の水準、つまり米中貿易摩擦の開始時の水準と言う事です。そして、さらにその先へと進む可能性も想定しています。

今、全世界が注目しているのは、ドル人民元です。これは、世界の目が、特に米中に向いているということです。ぜひ個人投資家のみなさまには、ドル人民元を取引して頂き、世界の潮流を感じて頂ければ筆者冥利につきます。

 

本日はここまでとなります。

引き続き注目度・影響度の高い、香港及び中国本土の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っております。ご支援のほどよろしくお願いいたします。

それでは、またの機会にお会いしましょう。

 

戸田裕大

 

 

<参考文献・ご留意事項>

各種為替データ

https://Investing.com

日本経済新聞:米下院も対中強硬法案を可決 中国企業に上場廃止圧力

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66935680T01C20A2EAF000

South China Morning Post: Hong Kong’s finance chief forecasts economic recovery next year, but admits it all depends on Covid-19 vaccine and US-China relations

https://www.scmp.com/news/hong-kong/hong-kong-economy/article/3112859/hong-kongs-finance-chief-forecasts-economic

Congress.gov: Holding Foreign Companies Accountable Act

https://www.congress.gov/bill/116th-congress/senate-bill/945/text

戸田 裕大

若竹コンサルティング 創業者