アントの上場延期とバイデン候補の勝利が為替相場に与える影響

本シリーズでは、発表された報道や現地の声、公表された経済データをもとに、香港の最新の情勢について迫っていきます。香港ドル・人民元などの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。

第21回は「アントの上場延期とバイデン候補の勝利が為替相場に与える影響」でお届けいたします。

それでは、さっそく本題に入っていきます。

 

アント・グループの上場延期について

今月3日、市場最大のIPOとなる予定だったアント・グループの香港・上海ダブル上場の延期が発表されました。本件について、中国人民銀行の劉国強副総裁は6日の記者会見で、「金融サービスにおける消費者と投資家の利益を総合的に考慮し、法規制に基づいて決定した」と語りました。

「法規制」の具体的な理由については諸説あるのですが、濃い線としては、10月24日の金融フォーラム(中国金融四十人论坛)でアントグループの筆頭株主であるジャック・マー氏が、現在の中国の問題は「金融システムリスクではなく、金融システムそのものが存在しない、まだまだ未成熟な状態であること」などと金融当局を批判したことが、関連当局から反感を買ったのではないか?と言う説です。実際に金融フォーラムの映像を確認したのですが、たしかに中国ではずいぶんと過激な発言と取られてもおかしくないように思いました。

相場への影響として、既に香港やNYに上場しているアリババ株が大きく売られ、香港ドルもやや売られましたが、金融市場全体への影響は軽微にとどまっています。

莫大な富と権力を掴んだ巨大テック企業と、伝統的な権力者である政府との対立は、米国だけでなく、中国にも広がっているように思います。この新たな対立をどのように折り合いをつけていくのか?米中対立だけでなく、巨大テック企業と政府との対立は今後の金融市場の趨勢を占う上で重要なファクターになってきていると感じています。

 

バイデン政権が相場に与える影響

さて、盛り上がった米大統領選ですが、バイデン候補が過半数を超える選挙人を獲得し、勝利宣言を行いました。対するトランプ現大統領は、適切な票集計が行われていないとして、抗戦の構えをみせています。

世間で注目されているのが、議会のねじれです。バイデン候補が大統領に就任したとして、上院を反対の共和党が押さえてしまうと、結局バイデン大統領が掲げる経済政策などを、そのまま実行に移すことが困難となり、結果として米経済成長への期待がはがれることになります。先週の外為市場では潜在的な経済成長率と関連性の強い米10年債の利回りが低下、日米金利差の縮小を受けて、ドル円は103円台の前半まで下落する局面もみられました。

それから個人的に注目しているのが、バイデン政権下における対中戦略の変化です。

読者の方には何度かお伝えしていますが、米国の対中安全保障戦略は今年の5月に既に大きく変更になっています。過去40年間の対中戦略、つまり中国を先進国が共有する国際的な価値観やルールへと導いていく戦略を間違えとして認める一方、新たな戦略では、価値観をともにする同盟国との連携をより一層強め、中国への対応をさらに厳しくするというものです。ですから大枠は対中強行路線を踏襲していくことになります。

しかし枝葉の部分ではどのような影響があるのか?バイデン候補の中国に関する選挙公約の全てに目を通してみました。結論から申し上げると、おそらくさらに一段と、中国へ厳しい対応をとるはずです。

「同盟国との連携」を軸とし、サプライチェーン、貿易条件の再構築(中国外し)はもちろん、環境・医療・テック・知的財産権の保護、中国への利用制限を一層、推進していく構えです。ですからまかり間違っても、対中政策が緩和されるということはないと思います。

米中対立は今後も激しく続いていくと想定しておいて損はないと思います。

 

香港ドルと人民元相場のアップデート

さて香港ドルですが、アントの上場延期もあり、少し売られてきました。対円レートはドル円の下落もあり1香港ドル=13.4円を下抜け、対ドルレートは長く張り付いていた7.75から僅かに乖離、米ドル買い・香港ドル売りの動き(チャートの青い丸囲みに注目)がみられています。

 

それから人民元高が止まらなくなってきました。ドル・人民元は執筆時点(9日の東京20時)において、1米ドル=6.55人民元台に突入。ここもとの中国の金利正常化や、内需主導の政策に加えて、米国のゼロ金利政策の長期化や、ねじれ議会など挙げればキリがないほどの材料が意識され、ドル安・人民元高は止まらなくなっています。

人民元レートはテクニカルでみれば買われ過ぎですが、人民元と日本円は特徴が異なる点に留意しましょう。「上昇する時はどこまでもが人民元の基本」です。循環論(上がったら下がる、下がったら上がる)の日本人投資家とはメンタリティが異なります。また人民元は普段からレートを意図的に安定するよう調整している分、溜まっているマグマも大きいのが人民元の特徴です。

目先1ドル6.30人民元まではドル安・人民元高の傾向が続くと考えています。

 

本日はここまでとなります。

引き続き注目度・影響度の高い、香港及び中国本土の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っております。ご支援のほどよろしくお願いいたします。

 

<参考文献・ご留意事項>

日本経済新聞:https://nikkei.com

South China Morning Post: https://scmp.com

10月24日、中国金融四十人论坛の映像

https://www.youtube.com/watch?v=OenVYMs8PxE&t=290s&ab_channel=%E9%9B%AA%E7%90%83%E8%B4%A2%E7%BB%8F

ジョー・バイデン米大統領候補の公約

https://joebiden.com/

相場情報:https://Investing.com

戸田 裕大

若竹コンサルティング 創業者