【解説】香港ドルを売り持ちしてはいけない理由

本シリーズでは、発表された報道や現地の声、公表された経済データなどをもとに、香港の最新の情勢について迫っていきます。中国や香港とのビジネスや投資、人民元・香港ドルといった通貨の売買のご参考にして頂ければ幸いです。

第18回は「【解説】香港ドルを売り持ちしてはいけない理由」でお届けいたします。

それでは、さっそく本題に入っていきます。

 

香港中銀が今年61回目の香港ドル売り為替介入を実施

さて、香港中銀の自国通貨売り為替介入の頻度がここにきて急上昇しています。為替介入は今年に入ってから61回目を数え、金額の総額は香港ドルで2,062億ドル(267億米ドルに相当)に達しました。

上のグラフで青いラインが為替介入の金額や頻度を表していますが、9月、そして10月と青いラインが頻繁に現れていることが見て取れると思います。逆説的には、香港中銀が為替介入に踏み切らなくてはならないほど、米ドル安・香港ドル高の圧力が相場に掛かっていることの証左と言えます。

では、なぜ今、為替は米ドル安、香港ドル高なのでしょうか?

 

米ドル安・香港ドル高の4つの理由

大きな理由は以下の4点であると考えています。

  1. 米国の大規模な金融緩和(4兆ドル→7兆ドルへ資産拡大)
  2. 米金利の先安感(2023年末までゼロ金利政策を予定)
  3. アントグループなど中国ユニコーンの香港上場を見据えた動き
  4. 米国と香港の金利差が再拡大(グラフを参照)

まず、トランプ政権下における米国の大規模な金融緩和の実施がドル安要因として為替相場に影響を与えていることについてご存知の方も多い点かと思います。さらに直近のFOMC議事録では米国が2023年末までゼロ金利政策を執り行う方針であることが示されました。これらが最もシンプルで強力な米ドル安要因となっています。

それからアントグループなど中国ユニコーン企業が香港上場を目指している、そしてその期待で中国本土から投資資金が香港に流れている可能性があります。そして香港ドル相場を観測する上で最も重要な金利差も再度、拡大傾向にあります。

現在の金利水準ですが、米ドル3Mが0.22%、香港ドル3Mが0.55%、となっており、その差が0.33%程度まで拡大してきています。米ドルと香港ドルの相場変動は制限されていますから、金利が高い方に資金が流れるのは自然なことです。

これらの要因から発生し、継続している米ドル安・香港ドル高を食い止めるために香港中銀は為替介入を繰り返しているのですが、これに副作用はないのでしょうか?

 

為替介入の副作用

香港中銀が抱える副作用は大きく2つ存在します。

1点目が、介入資金の調達に伴う調達コスト(金利負担)の発生です。香港ドル売りの為替介入を行うためには元手となる香港ドルが必要ですが、手元に足りない場合には、債券発行などを通じて調達しますので金利負担が発生します。

2点目が、為替介入により米ドル資産が積み上がり、結果として為替リスクが発生することです。具体的には米ドル安傾向が強まる中、USD/HKDが為替介入を実施している7.75の水準を下抜けると為替差損が発生します。

2020年7月末時点の香港中銀の外貨ロング(買い持ち)ポジションは1.02兆香港ドル(1,316億米ドルに相当)にも膨れ上がり、大きな為替リスクにさらされていることが確認できます。もちろん大半はヘッジされているのですが、米ドルの買い持ちのヘッジをするとヘッジコストで損失が積み上がっていきますので、結局大きな為替リスクを抱えるか、もしくはヘッジコストを支払い続けるのか、香港中銀は選択を迫られています。

香港中銀はこれに対して、Value at Risk方式(抱えている外貨のポジション量や、相場変動率などによりリスク量を測定)を用いて為替リスクをコントロールしているようですが、実際のロジックや、抱えた外貨の運用・リスク管理指針については確認することができませんでした。

いずれにしても、これ以上、外貨のポジションが膨れ上がっていくことを香港中銀が好ましく思っていないことは間違いないのではないかと思います。

ではこのように大きな為替リスクを抱える香港中銀を横目に、投資家はどのように香港ドルに接すればよいのでしょうか?

 

どのように香港ドルと接すればよいのか?

まず、香港ドル高の圧力は引き続き高まっていると推測されることから、香港ドルが7.75を割り込む可能性を十分に意識しておく必要があるでしょう。もし香港ドルをショート(売り持ち)しているのであれば、特に気をつけて管理をされてください。

取引する金融機関や取引所によってSWAP金利は異なりますが、キャリー(金利益)が見込めるのであれば香港ドルロング(買い持ち)が順張りでもっとも良いでしょう。ネガティブキャリー(金利支払い)になる場合は、無理に香港ドルのロングを醸成することはないと思いますが、注意深く相場をみて、時が満ちれば、香港ドルを買っていくのが良いと思います。

 

さて、本日はここまでとなります。

引き続き注目度・影響度の高い、中国本土・香港の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っております。ご支援のほどよろしくお願いいたします。

それでは、またの機会にお会いしましょう。

 

戸田裕大

 

<参考文献・ご留意事項>

South China Morning Post

https://www.scmp.com/business

Investing.com:為替レート及び 各種株価データ

https://www.investing.com

香港中銀の各種データ

https://www.hkma.gov.hk/eng

戸田 裕大

若竹コンサルティング 創業者